AGA(男性型脱毛症)の治療は、まさに乱れてしまった「ヘアサイクルを正常化させる」ことを目的とした、医学的なアプローチです。AGA治療薬が、具体的にヘアサイクルのどの部分に、どのように作用するのかを理解することで、治療への納得度とモチベーションを高めることができます。AGA治療の基本となる内服薬「フィナステリド」や「デュタステリド」は、ヘアサイクルを乱す元凶である脱毛ホルモンDHT(ジヒドロテストステロン)の生成を抑制する働きがあります。DHTは、毛根に作用して、本来なら数年間続くはずの髪の「成長期」を、わずか数ヶ月に短縮させてしまいます。これらの薬を服用することで、DHTの量が減少し、毛根への攻撃が弱まります。その結果、短縮されていた成長期が、本来の長さを取り戻し始めるのです。いわば、暴走していたサイクルにブレーキをかけ、正常なリズムへと引き戻す役割を果たします。一方、発毛を促進する外用薬「ミノキシジル」は、また別のアプローチでヘアサイクルに作用します。ミノキシジルは、頭皮の血行を促進し、毛根にある毛母細胞を直接活性化させる働きがあります。これにより、成長が止まっていた「休止期」の毛根を、再び「成長期」へと移行させることを促します。つまり、眠っていた髪の毛を目覚めさせ、新たな成長サイクルをスタートさせるスイッチの役割を担うのです。AGA治療を開始してしばらくすると、一時的に抜け毛が増える「初期脱毛」という現象が起こることがあります。これは、ミノキシジルなどの作用によって、新しい健康な髪が成長を始めた際に、古い弱々しい髪が押し出されるために起こる、ヘアサイクルの正常化に向けた好転反応です。このように、AGA治療は、DHTの生成を抑えて「成長期を長く保つ」こと、そして毛根を活性化させて「新たな成長期を開始させる」こと、この二つの側面から、乱れたヘアサイクルに強力に働きかけるのです。
AGA治療はヘアサイクルにどう作用するのか